バレエダンサー

ル―マ―・ゴッデン

渡辺南都子訳 偕成社 (_上・下巻)

           
         
         
         
         
         
         
     
 ひところ、小学校のクラスの女の子のうち、五人や十人はバレエを習っている、という時代がありました。女の子たちの気持ちをあおった要素の一つは、多くのバレエマンガでした。私自身は「ピアノ組」でバレエは習っていませんでしたが、バレエマンガは大好きで、その後も結構たくさん読みました。「不出来な少女が世界のプリマに」というスポ根路線と、「憧れの先生と結ばれる」という恋愛路線を合体させ、一世を風靡した山岸涼子の「アラべスク」。「憧れの先生」ではなく「隣の男の子」を選ぶ槇村さとるの「ダンシング・ゼネレーション」の連作。最近のものでは、人間ドラマの方に重点を置いた萩尾望都の「ローマへの道」の連作等々…。
 マンガの強味は、なんといっても、絵でバレエの具体的な動き方や美しさを伝えることができる点。私はなんとなく、このジャンルでは小説はマンガにかなわないんじゃないか、と思い込んでいました。でも「バレエダンサー」を読んで、初めて「面白いバレエ小説」を見つけた気がしたのです。
 主人公は二人。母の期待を一身に背負って、万全の備えでバレエ道を行く姉と、「男らしくない」とバレエを禁じられ、苦労しながら踊り続ける弟。けれども才能の輝きは弟の上にあり、姉は激しい嫉妬に苦しめられることになります。そして弟の大事な舞台の前に、嘘を言って気持ちを動揺させ、失敗をさせてしまうのですが…。ここまでなら、マンガでもありそうな設定です。そしてこれは、マンガならほぼ必ず「仇役退場」となる場面です。でもこの本は、姉を見放しません。姉のしたことは当然明るみに出、問題になるのですが、長老格の女の先生が「いい人であることといい踊り手であることは無関係です」と姉をかばってくれるのです(こういう「真実の言葉」を、マンガはまだあまり語っていない気がします)。
 常に邪魔されはするものの、いったん踊りだしてしまえば迷いを感じたことなどない弟と、バレエが大好きで一生懸命打ち込んでいるのに、いつも、私には何かが欠けている、と感じ続ける姉。芸事に関わる子の99% は実は姉の夕イプだと考えると、この本が姉を暖かく見守り、「たとえトップになれなくても、打ち込んだことで得られるものがある」と言ってくれているのは、嬉しいことです。ラスト近く、姉が「憧れの先生(偶然ユーリという名です!二にあっさり失恋し、実は大の仲良しでもある弟に気持ちを救われるエピソードにも、小説らしい奥行きと面白さを感じたものでした。(上村令
徳間書店 子どもの本だより「児童文学この一冊」1995/3,4