富士山だいばくはつ

かこさとし作
小峰書店刊

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 東京には、富士見という地名が多くありますが、昔はそこから富士山が見えたのでしょう。今ではそこかしこに高層ビルが立ち並び、実際に富士を見ることができる「富士見」は高層ビルの上の階なのかもしれません。ここ徳間書店ビルの9階からも、晴れて空気の澄んだ日には、立ち並ぶビルの遥かむこう、雲の上に富士山の麗しい姿を眺めることができます。
 さて、私はここ数年、毎年夏になると富士山に行っています。と言っても富士山登山をするわけではなく、富士下山をするのですが。五合目まで車で行って、他の人たちが杖を持って上をめざすのを横に見ながら、登山道に分け入り、どんどん下っていきます。
 富士山は駿河湾に面した比較的暖かい所にあります。ですから、ふもとに生えている草木は、関東近辺に普通に見られるものも多いのですが、五合目あたりまで行くと、高山もしくは北の地でしか見られない植物を観察することができます。先日スウェーデンの出版社の人が来日して、一緒に料理をしたときに、スウェーデンではマッシュポテトと小麦粉を練った皮の中に豚肉を入れて団子をつくり、ゆで、それをコケモモのソースで食べると、教えてくれました。はるか北にあるスウェーデンでは山にいかなくてもコケモモがあるそうですが、富士山では五合目あたりで見ることができます。そして下るに従って植生が変わってきますし、山の上と下とでは気温もかなり違うので一つの山を降りるだけで、ひと月ばかりの季節の移り変わりを、歩くに従って一日で感じる気さえしてくるほどです。
 毎年毎年、同じルートを下っていて驚かされるのは、途中、倒木がとても多いことです。そのせいで、去年の登山道が使えなくなって倒れた木をさけるように新しい道ができていたり、毎年風景が変わります。「どうしてこんなに木が倒れるの?」と、一緒に山を下りていた仲間に聞いたところ、富士山は比較的新しい火山だから、表面の土がまだ薄く、木が大きくなっても根をしっかりと張り切れない。だからちょっと強い風や雪でも倒れやすいのだ、ということでした。
 今年の夏には、アサギマダラというチョウが群舞しているのを見ました。渡りをするチョウだそうで、こんなに見られるのはめずらしいということでした。
 『富士山だいばくはつ』は、富士山を歌った和歌、富士山をめぐる歴史、そして、植物、昆虫や動物までも幅広く、絵と文章でわかりやすく富士山の魅力を伝えています。後書きに「富士山のようにやさしく、スマートな科学の本をつくりたいと6年ほどの間かきなおした」とありますが、まさに、富士山の魅力を色々な角度から見せてくれます。
 この本と出会ってから、毎年毎年見ていた富士山がますます魅力的に見えてきました。自分の足で歩き、目で見て感じてきた富士山。この本が、来年からの富士下山に、新たな楽しみを加えてくれました。(米田佳代子

徳間書店「子どもの本だより」2000年1月/2月号
東新橋発読書案内「豊かな富士山」
テキストファイル化富田真珠子