ふわりん

カルメン・クルツ

柿本好美訳 徳間書店 1981/1996

           
         
         
         
         
         
         
     
 スペインの物語。
 ふわりんとは生まれなかった子どもです。この物語の場合男の子なんですが、彼は「楽園」をでて両親の元に行くべく旅をしています。その間に、貧しいおじいさんや、病気のあかちゃんなんかを助けていきます。
 やがてたどりついた両親の家、そこには弟がいて、小児麻痺の彼をふわりんはサポート。

 「コリン、いい子だ。ころぶことをこわがっちゃだめだ。ころぶときは、からだを丸くするんだよ。はやく、ころびかたをおばえるんだ。けんこうな人だって、ころんで、ほねをおったりするんだからね」ちょうどそのとき、あともう少しで平行棒というところで、コリンはころんでしまいました。ふわりんは、すばやくコリンをだきとめると、早くおきあがれるように、手伝いました。146

 生まれなかった子どもが主人公ってのがまず、すごいですね。彼はとても悲しい存在だとつい思ってしまうけれど、そうではなく描く所がいい。原語ではどうなのか判りませんが「ふわりん」ってのがなんとなく、ピッタリします。
 そして、つぎのような部分もちゃんと押さえてある。

 コリンはふわりんのサポートもあって少し歩けるようにもなり、みんなと同じ小学校に行くこととなる。「お兄ちゃん、聞いて! ぼく、小学校に入学するんだ。そしたら、みんな、ぼくのことニコラスってよぶんだよ。おじいちゃんとおなじ名前だよ」 おじいさんとおなじ名前でよばれることを考えると、コリンはうれしくて、天にものぼる気分になりました。(略)「学校に行くようになったら、もう、家でも、コリンなんてよばせないんだ」 (略)「お兄ちゃんは、パパとおなじアルトゥーロって名前だったかもしれないね」「そうかもね」183


 でも実はそうじゃなくて、ニコラスという名前は、両親が生まれてくるはずのふわりんのために用意していたものだったんですね。
 ここに、ちゃんと「悲しみ」も作者は描いている。(ひこ・田中
メールマガジン1998/06/25