ふしぎをのせたアリエル号


リチャード・ケネディ

中川千尋訳・福武書店 1990

           
         
         
         
         
         
         
     
 孤児院で、だれからも見捨てられたと思いこんで悲しくなったエイミイはとうとうお人形になってしまいます。そこにもどってきたキャプテン(エイミイによって命を吹きこまれた船乗りの人形・・人形の頭を針でちくりとやると命が宿るのだそうです)は、人形になったエイミイを連れて、宝さがしの航海にでることにしました。乗組員はみな頭を針でさして命を与えられたぬいぐるみのニワトリやカエルといった面々。これから波瀾万丈の大冒険小説・・のパロディが繰り広げられます。宝の地図、迫りくる海賊船、船員のアヒルの陰謀と反乱、謎の女、そして最後にはなんとマザーグースのおばあさんまでが登場してきて…… ファンタジーといえばこのところ、エンデの亜流か、安っぽいヒロイック・ファンタジーばかりしかでてこなかったアメリカから久々に、スポーンと抜けでてきたナンセンス・ファンタジーの傑作。 奇抜で卓抜な発想、意表をつく展開と構成の妙、語りのうまさ、どれをとっても満点。それともうひとつ、あちこちにちりばめられたマザーグースの歌が、とてもいい味をそえてくれています。それぞれに持ち味が違うけれど、トルキンやエンデのとなりに置いてもけっし てひけをとらない。ピーター・ビーグルもいってるけど、この本は古典となるべく運命づけられているといっていいでしょう。
 えっ、タイトルはなにかって? 『ふしぎをのせたアリエル号』です。
 満足度百パーセント。存分にお楽しみください。(金原瑞人
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 901007