二つの旅の終わりに

エイダン・チェンバース:作 原田勝:訳 徳間書店 二四〇〇円

           
         
         
         
         
         
         
    
 第二次世界大戦の時、負傷した夫ジェイコブを介護し、死を見届けてくれたヘールトラウから招待を受けた祖母セアラ。その代理としてイギリスからアムステルダムにやってきたのは祖父の名前をもらったジェイコブ少年。彼は『アンネの日記』の愛読者ですから喜んで引き受けます。テンポ良いストーリー展開の物語が多い中で、対話と議論と思索によって読ませていく『二つの旅の終わりに』(エイダン・チェンバース:作 原田勝:訳 徳間書店 二四〇〇円)は、とても新鮮。物語はアムステルダムでジェイコブ少年がヘールトラウの家族や様々な人と出会いながら自分を見つけていく様と、ガンに犯され死を待つばかりのヘールトラウが、祖父ジェイコブと出会った少女時代を回想している部分とを交互に描きながら、隠されていた過去を徐は々に明らかにしていきます。その過程でジェイコブ少年は知り合った人々と語り合い、そして一人で考える。「なぜ人は、湿った口唇の表皮を他人の同じ場所にくっつけるなんて滑稽な動作をしたがるんだろうか?」。「ひとりぼっち。(略)それが成長すること、大人になることなのか? 孤独が?」。本当の英雄とは? 安楽死の是非は? 同性愛とは? 問いは尽きません。結論がでるわけではないけれど、語り考えることの心地よさ(苦痛もあるけど)を思い出せますよ。
読売新聞12.15(hico)