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十代の子の犯罪などが盛んに話題になるこのごろ。私は、「今の○歳が危ない」といった単純な語り方は、あまり意味がないと思っています。でも、世界中で十代の子たちが何を考え、どう生きているか、本を通して知ることには、妙な閉塞感に風穴を開ける効果があるかもしれません。 スウェーデンの話題作「冬の入江」の主人公ヨンは、貧しい環境で暮す十六歳の少年。ある夏の日、裕福な家庭の娘エリザベスと恋に落ちます。でもヨンは、エリザベスに自分の悩みを打ち明けることができません。母の同棲相手に虐待されて育ったこと、今その男が、姉にまで手を出していること。幼なじみの親友が悪い仲間に入り、道を踏み外しかけていること。エリザベスとの間がぎくしゃくし始めたとき、ヨンは以前から打ち込んでいたボクシングのトレーニングに苛立ちをぶつけ、専門学校の教師に勧められて書き始めた日誌に、自分の気持ちを綴ります。 ヨンは、さまざまな「現代の問題」の中で悩んでいます。母親やその同棲相手や、顔を見たこともない実の父親は、全然助けになりません。でも、ボクシングのトレーナーや教師だけでなく、親友の麻薬中毒の叔父や、母の同棲相手の相棒でけちな犯罪を繰り返している男など、普通に考えると悪影響のありそうな大人達が、ヨンが孤立し絶望するのを防ぎ、時には支えになっています。そしてヨン自身が、様々な選択の場で、まっすぐに生きる道を選ぶのです。 ![]() 一見荒れて見えるヨンのような子や、逆に、のんきに見えるセリーヌのような子が、どんなことを考えているのか。優れた作家達が捉えた十代の顔、ちょっとのぞいてみませんか?(上村令) 『冬の入江』(マッツ・ヴォール 作 菱木晃子 訳) 『がんばれ、セリーヌ!』(ブロック・コール 作 戸谷陽子 訳)
テキストファイル化富田真珠子
徳間書店子どもの本だより 2000/06.7 |
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