へびのクリクター

トミー・ウンゲラー/作
中野完二/訳 文化出版局 1974

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 へびは、あんまり人に好かれるたちの動物、とはいえません。でも、フランスのボドさんの息子はへびの研究者でへびが好きだったので、お母さんの誕生日のお祝いに、へびを贈ってきたのです。
 もちろんボドさんは最初見た時は、きゃ〜っといいました。でも気を取りなおしたあとは、そのへびを抱き締め、ミルクを飲ませ、寒い冬には長い長〜いセーターを編んでやり、ほかほかの長いベッドに寝かせ、クリクターという名をつけて可愛がりました。
 だってクリクターにはほかに行くところがないし、心のこもったプレゼントなのだし、へびだ、ということさえなければ、クリクターは穏やかで優しくて、非のうちどころのない上等な人格の持主だったのです。だったらへびだからって、かまうことはないでしょう?
 ボドさんは、田舎の小さい小学校の先生だったので、クリクターも学校へ行き、子どもたちの人気のまとになりました。クリクターは誰にでも親切で、楽しい仲間だったからです。
 のちにクリクターはボドさんの家に入った泥棒も捕まえ、町の人気者になりました。
 クリクターがへびだからといって後ろ指をさす人や、かげぐちを叩く人はいませんでした。
 クリクターは、町じゅうから愛され、尊敬されて、幸福に暮らしました。
 ひとの、外見は問題ではありません。大事なのは、中味です。ここには、人が幸福にくらすには何が大事か、ということの答えが全部入っています。外側だけ……国籍や人種、着ているものでほかの人を見てイヤだなァと思った時には、クリクターを読み返してみるのが一番です。どう見えるかはどうでもいいのです。どう感じ、どう動くか、が肝心なのです。(赤木かん子
『絵本・子どもの本 総解説』(第四版 自由国民社 2000)
テキストファイル化塩野 裕子



▼アンゲラー(ウンゲラー)は6才の頃、姉たちに白い糸で編んだ大きな襟を服に縫いつけられてそのまま登校させられたり、髪のくせを砂糖水で直そうとしたため砂糖で固まった針ねずみの針のように逆立った頭にさせられたりと、いたずらの恰好の標的になっていたらしい。彼は、文化批判・権力批判の諷刺画集、漫画、ポスターなどで有名なイラストレーターでもある。彼については「トミ・アンゲラー」「トミ・アンゲラー絵本の世界」(西尾忠久/著、誠文堂新光社、現在品切れ)に詳しい。