ヒルべルという子がいた

ペー夕ー・ヘル卜リング作
上田真而子訳 偕成社

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 出版された当時、非常に話題になった作品ですが、二十年近くたった今も、その峻烈さはまるっきリおとろえてません。
 ヒルべルという養護施設にいる男の子が主人公です。
 ヒルべルは、なんというか頭の中に渦がまわっている子です。
 そういう子を主人公に児童文学が書かれる、というのもそれまでにはなかったことですが、それ以上に、そのヒルべルは確かにフツーのこと……は、できないかもしれない…。でも表面優しくしててもお腹の中ではこの子、いまいましいね、と思っている大人なんかには敏感に反応するのです。
 もっと凄いのは彼を大事にし、わかりたい、可愛がりたいと願う、なんというか悪くはない大人……悪気なんかない先生が出てくるのですが、どうしても彼女には理解する力が足リない…。
 そのことはヒルべルの怒りと絶望をより深くしてしまうんだ、というとこまで描いているってところてす。
 大人というのは自分を守りたい、という意識もあってのことでしょうか、善良な大人を出してきて、それで事がすむ、と思いたい、だからそういうストーリーが多いんですが、たとえ悪気がなくても、善良でも、役に立たないものは立たない…それくらいならないほうがマシ……というのが現実です が、それをこれだけハッキリ、きっぱリと書いた本はなかったでしょう。
 四年生の男の子で、草原でライオンと遊ぶシーンを、ヒルべルってカッコいいね、といった子がいました。そのぐらいの感性がなければそういう人たちに手を出す資格はないのかもしれません。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)