ひさしの村

筒井頼子・作
織茂恭子・画 福音館書店

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 空襲のサイレンが鳴り響き、空が赤く燃えあがる。そんな町をあとに、ひさしの一家は東北の山村に疎開してきた。これは、小学四年生のひさし、出張で不在が多い父、そして母、いく子、かつ子の二人の妹が村人たちと打ち解け合いながら描く、四季を通じての心温まる物語。
 冬、雪深まる中、税務署がどぶろくを摘発にくるという噂(うわさ)がながれて、ひさしたち村人が大騒ぎしたり、夏、町から芝居がやってきて皆で学校へ集まったり。
 ひさしたちの自然とふれあう素朴で明るい生活が、方言の会話文と木版調の挿し絵から生き生きと伝わってきて、物があふれている現代の生活に一石を投じてくれる。
 また、後編として、春、東京近郊の新居に引っ越したひさし一家の様子を、妹いく子の目からとらえた『いく子の町』がある。東北なまりの言葉、友達、母の病気など悩みながら成長していく。いく子の姿をひたむきにとらえた作品。二冊を通じて得られる読後のすがすがしさを、ぜひ味わってほしい。
 
(由)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化武像聡子