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子どもの本や児童文学を楽しむ極意は、「不思議」に理屈をつけず、そのままに受け容れることだ。『星兎』という作品を読み終えたとき、僕はあらためてそのことを確認させられた。「そこにあるものじゃなくて、あるはずのものを見てしまう」ユーリは、繊細だがクールな少年だ。ユーリが、人並みの中で出会ってしまったものは、ぬいぐるみなんかじゃない、等身大の、直立した、本物のうさぎだった。人の言葉をしゃべれるうさぎ。ドーナツ屋のシナモンシュガーが大好きなうさぎ。彼と過ごした日々を二重映しに語り紡ぐこの物語は、産まれて来たことの理不尽さをやわらかく受け容れる勇気を与えてくれるものだ。![]() そんなわけで、ドッカリとした不思議は『やまのじぞうさん』である。大風にビューボービューボー吹かれても、カンカン、デリデリお天道様に照りつけられても、じぞうさんは山の上にただドッカリと座っている。そうした力強い風景を、作家たかべせいいちはボール紙にロウ原紙の多色刷り版画で味わい深く表現する。じぞうさんに対比される、人間の小賢しさと性懲りもなさが、妙に愛らしい。 さて次は、『きっとみずのそば』。この作品はいわば、ホップ、ステップ、ジャンプの不思議と言えるかも? ある日とりのワゾーが残していった手紙は、テーブルの上に一字ずつ並べられた紙片、き・っ・と・み・ず・の・そ・ば。この言葉だけを手がかりに、アマゾンから北極へ、北極からアフリカへ、アフリカからベニスへと、ひたすら水のある所へ「ぼく」はパパとワゾーを探し求める。最後の最後のワゾーからの手紙は…、アナグラムが楽しい広々とした絵本だ。 おしまいは『からくりからくさ』の穏やかな不思議で締めようか。亡くした祖母の家に暮らしはじめた蓉子と、その下宿人、紀久、与希子、マーガレットの三人の娘たちの生活を描くこの物語は、心を持つ人形「りかさん」を受け容れる、それぞれの形を縦糸に織り上げられるタペストリーと言えるだろう。燃えさかる炎の静謐さに似た彼女たちの穏やかな暮らしに寄り添いながら、私たち読者も、その不思議を不思議のままに受け容れることこそ、この作品を味わう方法である。 そして最後に付け加えておけば、児童文学って、今ここに居ることの不思議さを、そのまま受け容れる力の源なんだよね。 <ブックリスト> 星兎 寮美千子/作 パロル舎 1500円 ねこじゃら商店へいらっしゃい 富安陽子/作 井上洋介/絵 ポプラ社 900円 やまのじぞうさん たかべせいいち/文絵 架空社 1600円 きっとみずのそば 石津ちひろ/文 荒井良二/絵 文化出版局 1500円 からくりからくさ 梨木香歩/作 新潮社 1600円(甲木善久)
毎日新聞1999/06
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