ポーラをさがして

さな ともこ・作
杉田 比呂美・絵 講談社 1997.6

           
         
         
         
         
         
         
     
 わたしことショーコとカナちゃんは、自分を確かめたくなる時あることをする。電柱から電柱まで息をとめて全速力で歩くのだ。うまくいけば「わたしはできる」という気持ちになれる。二人は塾友だちで通っているのは自由塾、陰でおちぼ塾とも呼ばれているちょっと変な塾である。変というのは、進学率とかの基準でみると親には気に入られないという意味で、子どもにとっては自分のペースにあった勉強ができ、おしゃべりも楽しめる気持ちの休まる所なのだ。カナちゃんはこの頃、月謝のことで頭を痛めていて元気がない。家庭に何か事情があるらしい。先生の平八郎夫妻もカナちゃんのことを心配している。
 そんなある日、二人は電柱に「猫をさがしております。名前はポーラと申します」という貼紙をみつける。毛筆の字がふるえているように見えた。翌日から行方不明のシャム猫探しが始まった。月謝のために始めた捜索だったが、探し主のおばあさんと親しくなるうちにそのことはもうどうでもよくなり、カナちゃんは必死に探し続ける。ようやくはんこ屋のガラス戸の向こうにポーラに違いないブルーの目の猫が見つかるのだが…。
 親に気を配り、それでもやめたくない塾の月謝を自分で工面しようとする勝気なカナ。幼ななじみのクラスメートとは違う意味で気持ちの通い合うカナを気遣い、塾の先輩に憧れを抱きながら、勉強することの意味を考え始めるショーコ。一見クールな六年生の女の子たちの気持ちの揺れが、猫探しをからめて心地よいテンポで語られていく。自由になるために勉強するという信念で子どもを見つめる平八郎、がんこな職人気質のはんこ屋など大人の描き方も好感がもてる。寺子屋的塾の存在そのものも、ある種地域の役割を担っているようにも読める。
 老人性痴呆症の老女がなおも猫を探し続ける姿に二人は「すごい、めげないね」と次の電柱めざして大きく息を吸いこみはじめる。(千代田 眞美子
読書会てつぼう:発行 1996/09/19