ヴェルリオーカ

ヴェニアミン・カヴェーリン

田辺佐保子訳、群像社

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 次から次へとふりかかってくる災難をきりぬけ、お姫さまを助けだし敵をたおす。冒険ファンタジーのパターンって、単純だけどついのめりこんでしまいます。
 ロールプレイング・ゲームやインディー・ジョーンズ物映画など、ちょっと食傷気味かな、と思っていたところへ、やっぱり正統派ファンタジーはいいな、としみじみ実感の一冊は、『ヴェルリオーカ』(ヴェニアミン・カヴェーリン著、田辺佐保子訳、群像社・2369円)。
 まず、主人公のワーシャのおいたちが変わっています。彼はもともと、身分証明書係のミスで書類に書きこまれた「ほんとうは存在しない子ども」でした。が、子どもがほしくてたまらない天文学者の想像の中で育ていき、ついに現実の十五歳の少年になったのです。
 好奇心いっぱいの元気な女の子イーワのために、少しずつ魔法を使う力を育てていったワーシャが悪の化身ヴェルリオーカと対決するこの物語。ギリシャ神話をはじめとする古今東西の文学が引かれているなど、自由自在な遊び心がふんだんにみられるのも魅力です。
 何といっても楽しいのは、詩的といいたいくらい美しい魔法や変身が、次々に出てくること。しかし、こういった奇跡をひきおこすのに必要なのは、やはり人間の意思だというのが、また勇気がでるではありませんか。 (芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席1991/05/01

テキストファイル化 妹尾良子