リトルベアー

L.リードバンクス=作/渡辺南都子=訳/小峰書店

今日は死ぬのにもってこいの日

N.ウッド=作/金関寿夫=訳/めるくまーる


           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 あのスピルバーグが映画化するというので、小さなインディアン戦士の人形の物語トルベアー』が再出版された。
 映画のほうは何となく画面が想像できちゃう気もするが、何はともあれこの本が消えたままになってしまわないで、よかった。
 読み直してみると、やっぱり面白い。
 少年オムリが誕生日のお祝いにもらった、プラスティックのインディアン人形と、古ぼけた洗面戸棚。その戸棚の鍵穴にぴったり合ったのは、母親のおばあちゃんの形見だという宝石箱の鍵。
 人形を入れた戸棚に鍵をかけて寝たオムリは、翌朝その人形に生命が吹き込まれているのを知る。 こう書くといかにもありそうなファンタジーだが、人形が動いたり話したりする従来の物語とは、明らかに一線を画している。
 作者が、この人形に、百年以上前のアメリカ先住民族であるイロコイ・インディアンの首長の息子というきちんとしたアイデンティティーを与えたのは、大きな意味を持つ。当然の成り行きとして、少年と対面したとたん、この小さな戦士リトルベアーは、ナイフを振りかざして襲いかかってくる。
 初めのうちは、お互いに驚いたり戸惑ったりするばかりだったがしだいに友情が芽生え、少年はリトルベアーを一人の人間として尊敬するようにさえなっていく。 少年は図書館で、アメリカ先住民族の歴史を学び、価値観の違いを学んでいく。少年の秘密がいつ周囲にばれるかと、読者はハラハラしながらも、いつのまにか、一緒に勉強させられるのだ。
 このあたり、例えば、同じ英国で生まれた傑作ファンタジー『ピーターパン』の中に出てくるインディアンがどんなふうに描かれているかを思い出してみれば、明確に歴史観の違いが分かる。
 そんなことを考えさせられたのも、ネイティブ・アメリカンの口承詩日は死ぬのにもってこいの日』を読んだ直後だったせいかもしれない。 ニューメキシコ州サンタフェ郊外のタオス・プエブロで、今も「自然との共生」という伝統的な生き方を守って暮らしているインディアンの古老の語る言葉には、耳を傾けるべき真実がある。
 心を無垢にして読んでみれば、どのページにもきっと、静かに、あるいは激しく胸にしみ入る言葉があるだろう。とりわけ、二匹の蝶の「死の踊り」と「新生の歌」の章は美しい。 ところどころに挿入された細密な肖像画も、一見に価する。(末吉暁子)
MOE 1996/02

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