メロンのじかん

まど・みちお/詩
理論社刊

           
         
         
         
         
         
         
    
 まどさんの詩を思う時、いつも心がにこにこ明るんできます。そして、何か今まで忘れていた大切なものを思い出すのです。
 「ぞうさん」の詩人は今までたくさんの詩と童謡を書いてこられ、私の本棚にも分厚い全詩集があり、阪田寛夫さんのすぐれた評伝的小説『まどさん』もありますが、この二〇〇〇年の春にご紹介するのは九〇歳になられた詩人の最近詩集。その詩の心とみずみずしい言語表現はいささかも変わらないばかりか、小さな生命との交歓の一瞬に宇宙を見る感覚や、「自分を自分にしてくださったもの」(他でのまどさんの言葉)への思いはさらに深められています。
 しゃがんで白いニラの花に見とれていると、その花に似たプレアデス星団が宇宙のふるさとから見下ろしている詩、朝顔がオハヨウというと天地が祭のように輝く詩、虹を大きなきれいな眉とすると、その下に大きな涼しい目があるのではないかという詩、ゴールデンレトリバー犬のメロンと、ごうごう流れるひとつの時間を共有する詩、どれも生命たちが地球語、宇宙語で語り、さざめいています。そしてまどさんは、わずかな一瞬のうちにその言葉を聴き、そのはるかな来歴を感じるのです。私たちがその存在を認識する前に叩き殺してしまったりする「蚊」についての詩が六編もあります。そして道端のアカノマンマも。

このういういしさは
このつつましさは

天からのもの 地からのもの
はるかな はるかな はるかな…

なのに この草のもの
におうばかりに いまここに
(「アカノマンマ」より)
 神様によってつくられた私たちの生命の原質に、いつも立ち返ることのできるまどさん、お元気で。(きどのりこ
『こころの友』2000.02