ミジンコの都合

日高敏隆・坂田明


晶文社 1990


           
         
         
         
         
         
         
     
 『ミジンコの都合』、わけのわからない題名である。著者は動物行動学者の日高敏隆とジャズ・サックス奏者の坂田明。わけのわからない組み合わせである。
 じつはこの本、「生き物を飼う」ということをテーマにふたりが語りに語った対談集なのだ。坂田明は「飼育」にかけてはほんとの意味でのマニア。一度やりはじめると、とことんやりつくすタイプで、「バラタナゴで子がとれることがわかったもんだから、『ヤリもやってみるか』って気がおきて、結局、いまはヤリタナゴ、それに関西の水系にしかいないギンリンヤリタナゴ、アブラボテ、イチモンジ、マタナゴ……」とどんどんエスカレートしてしまう。ネコや犬はいうにおよばず。とくにミジンコとは長いつきあいらしい。それでミジンコの培地をどうするかなんだけど、鶏糞を使ってみたり、藁の煮汁を使ってみたり、稲を植えてミニ田圃にしてみたり……と、試行錯誤の連続。
 そんな話をしていると、日高敏隆から、「『ゾウリムシの繊毛はどう動くか?』なんて研究をやってたけど、やはり藁の煮汁をつくるところからはじめるんです。あんまり煮過ぎちゃいけないけど、煮かたが足りなくてもだめだとか、藁にレタスを少しいれるといいとかね。『キャベツはどうかねえ?』『いや、やっぱりレタスのほうがいい』」なんて話がでてくる。
 ユニークなエピソードをまじえながら、ユニークなふたりが、ミジンコ、タナゴ談義から、犬やネコとのつき合いかた、人間の生き死にまで、とことん、語ってくれます。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 90/11/18