空の民(チャオファー)の子どもたち

安井清子著


社会評論社 1998


セリの熱い夏

森下ヒバリ作 伊藤重夫画

理論社 1998

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 紙の写真の子どもたちがいい。5、6歳だろうか、じつに屈託のない笑顔。生き生きと輝く目。そして日本人とおんなじ顔。でも、これはヌイの難民キャンプに住むモン族の子どもたちなのだ。
 中国、ラオス、タィなど、東アジア一帯の山岳地帯に古代から独自の文化圏を形成して暮らしていた人々。それがモン族である。空に近い高山に暮らしているというので、空の民とも呼ばれる。国境を持たない、つまり帰るべき国のない人々でもある。
 これはモン族の中で奉仕活動をしてきた日本の若い女性の体験記だ。
「空の民」が日本人と同じ顔をしているのも道理、実はその昔モン族の男が、不老不死の妙薬を求めて日本に渡来してそのまま住み着いた、という伝説があるのだ。日本でも「徐福伝説」として知られた話だが、子どもたちの日本人としか思えない顔を見ていると真実味を帯びてくる。
 この本を読むと、国境というもの自体が、いかに御都合主義で無意味なものかと考えさせられてしまう。
 難民という言葉も、最近ずいぶん耳にするようになったが、深くその意味を考えたこともなかった。が、モンの人たちの受難の歴史を知ってみると、難民としてしか生きられない民族の悲哀が理屈ぬきに胸を打つ。
 安井清子さんは、小さい頃から童話を読むのが好きで、将来は児童文学作家になりたかったのだそうだ。たまたま、タイの難民キャンプで奉仕活動をすることになり、そこで彼女はモン族の人たちとかけがいのない出会いをすることになる。
 日本から持っていった絵本を子どもたちに読んであげるうち、彼女は、モンのお年寄りの中にも素晴らしい語りべがいることを知る。しかも女性たちの作る刺繍やパッチワークの作品はみごとな芸術品だ。
 安井さんは、両者を組み合わせてモン族に伝わるお話を絵本にしようと思いつく。
 この人たちの作った刺繍絵本は、先頃日本でも展示公開されたのだが、私は見逃してしまった。先にこの本を読んでいれば、何としても見に行ったのにと残念だ。
 モン族で思い出したのが、少し前に出た『セリの熱い夏』だ。作者はやはりタイに魅せられ、日本とタイを行ったり来たりしている若い人。
 モン族出身のおばあさんのルーツを尋ねる日本人少女の旅が、イキのいい文体で書かれた魅力的な小説だ。
 異文化のなかに裸で飛びこんで暮らしてきた日本の若い女の子の、熱い体験から生まれた2冊だ。(末吉暁子)
MOE1998/07