闇の守り人

上橋菜穂子

二木真希子絵/偕成社 1999


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 鮮やかに短槍(たんそう)を操り、一見クールだが義侠心が強く、滅法強い女用心棒のバルサが主人公のこの物語は、『精霊の守り人』の続編ともいえる冒険ファンタジー。
 前作で父王に命を狙われた王子チャグムを助け、彼が新ヨゴ皇国の皇太子となるのを見届けたバルサは、故郷のカンバル王国に向かう。そこで王の主治医だったバルサの父が、暗殺によって兄の王位を奪ったカンバル国の先代王に殺されたことを知る。父の親友の天才的な短槍使いジグロは、バルサの命を案じ、連れて逃げたのだった。バルサは養い親ジグロの汚名をはらそうとするのだが、そこでもまた王家を巡る権謀術策に巻き込まれて瀕死の傷を負う。
 この地域にはカンバル王が統べる地上の国と〈山の王〉が統べる山の底の国がある。〈山の王〉は貧しい地上の民のために数十年に一度だけ地底の入り口を開けて、ルイシャ〈青光石〉という非常に高価な宝石を贈る。このルイシャ贈りの儀式のときに、王をたぶらかし地底に攻め込んで宝石をすべて奪い取ろうというのが、ジグロの弟で〈王の槍〉として権力をほしいままにしているユグロであった。ヒョウル〈闇の守り人〉とは? そしてバルサの命運は?

 壮大な構想力と細部に渡った巧みな描写で神話伝説的な世界を鮮やかに彩り、一気に読ませてしまう魅力的な作品である。民の幸せと王権の趨勢をどのように止揚するかが今後の課題か。(野上暁
産経新聞 1999,03,02