夜の鳥

卜ールモー・ハウゲン作
山口卓文訳 旺文社

           
         
         
         
         
         
         
     
 これは一九七○年代、女性の解放と自立とリコン、の嵐が吹き荒れたあと、というか、そろそろ終わり近くなりかけた頃に、ノルウェーから、トールモー・ハウゲンという男性が出してきた本です。
 主人公の男の子、ヨアキムは七歳か八歳か…。
 彼は、というより彼のお父さんはトラブルを抱えこんでいます。
 教師なのに、教室に立つとめまいがして授業ができないのです。
 お父さんは労働不能で不安定なまま家にいて、そのせいで家の中はいつもかすかな恐怖と緊張がただよっていて、ヨアキムはいつも不安なまま、表面上は静かな暮らしをしているわけです。こういう、子どもが守られていないってどんなこと? という質問に答えられるような〃静かな虐待〃を描いた本はそれまでなかったように思います。プラスその後ろにそっと社会が透けて見える……。
 こんなふうに両親が悪い人なわけでもなく、なぐったり、コトバで傷つけるわけでもなく、むしろ、夜になると戸棚の中で恐いフクロウが暴れる、といって恐がるヨアキムに、戸棚に鍵をかけ、さあこれでフクロウは出てこないから大丈夫だよ、という対応ができる人たちでありながら、でもヨアキムを〃守る〃ことはできないのてす。
 この続編『少年ヨアキム』のほうで、初めてお父さんはヨアキムの前で泣いて、子どもの時につらかった、という話をします。男だからって強くなくてもいいんだってことも-。
 そういう男性が初めて登場した、この二冊は画期的な作品だったのでした。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)