ゆりの花咲く谷間

ベラ・クリーノドー/ビル・クリーバー共著
井上みどり訳 冨山房

           
         
         
         
         
         
         
     
 これは一九六九年の作品で、翻訳されたのも七三年と古いですから、もう持ってない図書館も多いかもしれません。でも中味は現役よ。むしろ今のほうがわかる人が増えて、読者がつくんじゃないかと思います。
 舞台はアメリカ、ノース・カロライナ州のアパラチア山脈に住む一家の物語です。お母さんはいず、お父さんも病気で死にかかっていて、畑もボロボロ……というわけでテボラ・、メアリー・コ-ル、アイ・マ・ディーン、ロミーのルーサー一家は冗談ではなく死に瀕しています。
 でね、この本は大変詩的で美しく、文学的にもかなりのものだと思いますが、にもかかわらず抱腹絶倒ものにおかしいのです。
 というのは一家の大黒柱は頭の切れる次女のメアリー・コール、で長女のテボラはメアリーにいわせれば〃ルーサー家になんで一人だけ頭のにぶい者が生まれたのかわからない〃なのですが、ふっくらとした美人で料理上手、一家の地主は隣の(といってもかなり離れてますが)カイザー・ピースで再三デボラに結婚申し込みをしてきていて、デボラもいいといってるのに、父親と彼と一心同体のようなメアリー、二人の悲願はデボラをカイザーと結婚させないこと……で、そのために必死になったメアリー・コールはしまいには自分がカイザー・ピースに結婚申し込みまでするのですが、その時の〃アンタがたとえ四十でも……〃〃オレはまだ三十だ!〃というような細かなやりとりにも上等のウィットやユーモアが感じられて、思わず吹き出しそうになるのよね。
 自然が大変美しく、植物の好きな人にはこたえられない一冊でしょう。(赤木かん子)
『かんこのミニミニ ヤング・アダルト入門 図書館員のカキノタネ パート2』
(リブリオ出版 1998/09/14)