竜宮城はどこですか

佐々木守

くもん出版 1998


           
         
         
         
         
         
         
     
 シナリオ作家・佐々木守。
 『ウルトラマン』 『アルプスの少女ハイジ』といった子ども番組や、『儀式』『夏の妹』といった日本のヌーヴェルバーグを支えた映画など多岐にわたる活動の中で、一貫して<戦後民主義>を大切にしてきた。それは、個人があらゆる体制よりも優先されるという考え方であり行動のことであったと佐々木は言う。
 『竜宮城はどこですか』(くもん出版)は、七六年に自身が書いた昼メロの脚本『三日月情話』を大幅に書き直した児童文学だ。
 ここでは騎馬民族征服王朝説が唱えられ、日本原住民へのロマンが描かれている。「竜宮城へいってきます」との手紙を残して、失綜した人間を追っていくというプロットは元の脚本と同じだが、主人公は主婦から中学生の少年に移し替えられている。
 失踪した姉を追う少年俊、同じく失踪した兄を追う少女由香と出会う。二人のほのかな恋心が、ジュブナイルとしての甘酸っぱさをかもしだす。お互いの兄と姉は、日本原住民の子孫であり、滅びゆく彼らの血を残すために結びついたのだ。
 全国にある浦島寺や三保の松原に残っている伝説は遠い昔の人々が思い描いた常世の国だった。今ある社会と別の価値観を持っているというだけで排斥される人々。しかし、日本原住民の出雲族は今でも生き続けている。
 俊の担任である歴史の先生・美矢子が、姉を捜す教え子の手助けをしている内に、由香の兄のことを、常世の国を信じている存在というだけで、まだ会いもしないのに恋してしまうのもイイ。彼女は言う。「人間はみんな、三日月なのかもしれない。それぞれ、相手の三日月のかがやいているほうだけを見ていて、かげになっているほうは、まったくわかんない。あたしたちの社会は三日月のよせあつめといっても、いいかもしれない」。
 今の子ども達の多くが、現実は一つだと思っているとするなら、ぜひ読ませたい小説だ。(切通理作)
読書人99/02/12