龍使いのキアス

浜たかや著・佐竹美保絵

偕成社 1997


           
         
         
         
         
         
         
         
    
六百五十ページをこえるファンタジーの大冊である。アギオン帝国三百年の歴史に秘められたナゾを追って、十四歳の少女、見習い巫女(みこ)キアスの旅が始まる。 
ゲーム業界では、ゲーム世界の枠組みを「世界観」というらしいが、この作品の「世界観」は、きわめて構造的でかつ適度な迷宮性を帯びている。キアスをはじめとする登場人物も、それぞれに魅力的である。 
神話的な国家の形成と継承、その中で生まれる退廃と危機というテーマも、現実とてらしても十分示唆的である。 
けれども、なにかが足りないようにも思えてならない。巧みに描き分けられたキャラクターが、役割どおりに動いて物語は進行するのだが、そこにのっぴきならないドラマが渦巻き、読者の心をわしづかみにするといった迫力が感じられない。会話の部分をはじめとして、文体にもなじめないところがあった。 
とはいえ、第五部「夢の入口」は圧巻である。夢の呪術を描くさいの作者の理論性と描写力は、読者をある種の酩酊(めいてい)に誘ってくれる。冒頭に近いあたりに出てくる「葬送の歌」という呪歌が預言であったという伏線は、生と死、内と外、夢と現実といった二元論を溶解させて、スゴミがある。 
佐竹美保の表紙もすばらしい。でもちょっとキマリすぎ。(斎藤次郎)
産経新聞 1997/02/25