龍使いのキアス

浜 たかや・作
偕成社 1997

           
         
         
         
         
         
         
     

 アギオン帝国は、初代皇帝アグトシャルの夢の呪縛に何百年も苦しんでいた。モールの巫女の力は弱まり、ロールの世界にはさまざまなひずみが現れはじめていた。
 巫女見習いのキアスは、燃えるような赤い髪をもつ十五才の少女。正式の巫女になるための「呼びだしの儀式」に失敗し、神殿を追われるが、捨て子だったキアスには帰る場所もない。三百年も行方不明の、龍をもあやつったと言われる偉大な巫女、マシアン様を求めて旅立つ。
 さまざまな人や困難な出来事に出会いながら、キアスは内に持つ大きな力に目覚め、成長していく。明らかにされる出生の秘密。そしてキアスという名の意味…。
 浜たかやの『太陽の牙』に始まる七部作は、スケールの大きい神話的世界である。恐らく、作者の中では一大叙事詩が構想されているのだろうが、一作ごとに時代は前後するわ舞台はとぶわで、続編を期待する読者にとって、読みやすいものではなかった。その上登場人物があまりに運命に操られていて、作品世界が暗くなるのは否めない。
 ところがこの『龍使いのキアス』、その壮大な神話的世界はそのまま、わくわくするほど愉快な、意志的なファンタジーになった。キアスと彼女をとりまく若者たちが、自分たちの手で世直しをはかろうとするのである。
 落ちこぼれのヒロイン、父と息子の葛藤、献身的な純愛、権力者のおぞましさや孤独、賢者とは、本当の知恵とは何か―等々、普遍的かつ人間的なテーマがもりこまれ、キアスのマシアンを求める旅、自分さがしの旅に同道する読者も、さまざまな自分の分身に出会い、影に出会う。
 皇帝の夢から解き放たれ、生き生きと再生するロールの世界。その時読者も又、自分の心が豊かに呼応するのを感じる。
 自分を見つけあぐねている、全ての若者に手渡したい。(藤江美幸
読書会てつぼう:発行 1999/01/28