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こんなじかんに おきているのはだれだ? で、はじまる『ねないこだれだ』は、もうすっかりお馴染みの絵本。これまでに、いったい何回読んだことでしょう。それこそ、上の子の時も下の子の時も、寝る前には必ず、と言っていいほど、繰り返し読んでいたのですから、すっかり詰んじていました。 読み方も、日々変えて、今日はやさしく正調絵本の読み聞かせ風、今日はうーんと怖く講談風「東海道四谷怪談」調と、バリエーションも豊かに、親子で大層楽しんだものです。やはり、盛り上がるのは講談風で、これでもかこれでもかと怖くして、親子でエスカレート、すっかり興奮して、寝るどころではないといった夜もたびたびでした。 この絵本、「おかあさんのつくった絵本」と題された「いやだいやだの絵本」シリーズの中の一冊。他に「あーんあんの絵本」シリーズがあります。作者、せなけいこ自身の子育ての中で生まれてきた自称「自家製絵本」です。絵は、貼り絵の手法が取られ、シンプルな形が小さな子どもたちにもわかりやすく、愛されてきました。若い頃、かの武井武雄に師事したという作者。武井武雄のユニークな造形とユーモアのセンスを受け継ぎつつ、身近な子どもとの生活の中で、独自の絵本世界を作り出しました。せな作品の持つ、粋と軽みも、武井ゆずりのものかもしれません。そう言えば、武井武雄には通称「武井刊本」と呼ばれる手作り本の仕事があって、その中の一冊がアップリケの手法で作られたものでした。貼り絵本を作る時は、家族総動員、大騒ぎで楽しく作ったと、武井さんのお嬢さんからうかがったことがあります。貼り絵には、どこか手作りの家庭的な温かさがあります。 一連のせな絵本には、絵本ではあるのですが、いわゆる、絵本とはもう少し違った、例えば、お気に入りの毛布…といった存在に近い親近感が、あるように思います。一見、早寝励行の「しつけの絵本」のようでいながら、その実、そんなしつけのルールをちょっと踏み外しながら成立している「微妙で豊かな親子関係」、つまり、「早寝は大事だけど、少々寝るのが遅くなったって親子でジャレあう時間の方がもっともっと大事だよね」というリアルな子育ての価値観が、この絵本の根底には流れています。その底流があるからこそ、『いやだいやだ』も『もじゃもじゃ』も読者にとって魅力的な絵本に仕上がっているのです。 このリアルな子育ての価値観は、きまじめに育児マニュアルだけを読んでいたのでは見つからないものかも知れません。毎日の暮らしの中で、親と子が見つけていくものです。 こんなアンチ・マニュアルな育児絵本。大いにお薦めします。 テキストファイル化富田真珠子 |
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