絵本、むかしも、いまも…
第38回「動物画の達人 ―山田三郎『三びきのこぶた』―」

『三びきのこぶた』(瀬田貞二訳/山田三郎画/福音館書店刊)

           
         
         
         
         
         
         
    
“三びきのこぶた”と言えば、私の世代がまず思い浮かべるのは、NHKの子ども番組「おかあさんといっしょ」で放送されていた「ブーフーウー」。これは、人形劇と着ぐるみの人形が組みあわさったもので、作・演出はちひろ美術館の初代館長飯澤匡、一番下のウーの声は現館長の黒柳徹子、人形制作と美術は画家でデザイナーの土方重巳でした。一九六〇年から六年半もつづいたおかげで、多くの人が見たものです。そのブーフーウーの最後の放送が、一九六七年三月二十八日。同年の四月一日に誕生したのが、月刊絵本「こどものとも」の『三びきのこぶた』です。まるで生まれ変わりのよう。
 生まれ変わりと言っても、雰囲気は異なります。「ブーフーウー」がどちらかというと愛らしい人形のキャラクターだったのに対して、絵本『三びきのこぶた』は、動物の肢体をリアルに描写しつつ、擬人化した絵でした。
 絵を描いたのは山田三郎(一九二七〜七九年)。山田は人形制作の工房を経て、一九四七年に人形劇団プ一クの再建に関わり、人形劇の世界で活躍。その後、本格的に子どもの本の仕事をはじめ、『きつねとねずみ』『かもときつね』等の絵本や『ながいながいペンギンの話』の挿絵でも知られます。
 故飯澤匡は、山田三郎を日本の動物画の第一人者と評しました。動物画といえば、イギりスのビアトリクス・ポターやレスリー・ブルック、ロシアのE・M・ラチョフの名がすぐ浮かびます。彼らは、動物の生態を観察し、その肢体を写実的に捉えながら、人間の動作をさせるという絵画表現で高く評価される画家たちです。山田三郎は、そうした動物画の正統な継承者ということでしょう。
 実はこの『三びきこぶた』には元本があって、その絵は誰あろうレスリー・ブルックその人。ふたつを比べて見ると、とても興味深い発見があります。山田は、ブルックから多くのものを学びながら、独創的な画面作りを展開しているのです。例えば、レンガの家作りの場面では、家の設計図面やのこぎりや金槌やらレンガ運びの一輪車やら、舞台美術の画家らしい細かい道具を描きこんで臨場感を増しています。また、祭りのシーンでも、ブルックが木馬に乗ったこぶただけを描いたのに対して、山田はカーニバル全体の賑わいを楽しげに描き出しています、こぶたの顔もブルックの獰猛そうなこぶたに比べて、山田こぶたはお人よし顔。そのあたりは、草食文化の日本人と肉食文化人との違いがあるのかもしれません。
 そう言えば、ひと頃、最後にこぶたが、鍋で狼を煮て食べるというのは残酷、非教育的…。いや、昔話なのだから、それでいいんだ…と、三びきのこぶたが論議を呼んだことがありました。因みに、「ブーフーウー」は「三びきのこぶた」の後日談という設定だったのを覚えています。(竹迫祐子)

徳間書店「子どもの本だより」2003年9-10月号 より
テキスト化富田真珠子