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文芸賞の最終候補作となった『ゴジラの出そうな夕焼けだった』を第一弾として、『逃げろ! ウルトラマン』『半漁人あらわる』『一瞬の原っぱ』と、個性的でユニークなキャラクターの子ども集団を、生き生きと描いてみせた作家の最新作。これまでの作品と同様に、桜谷のワルガキたちが登場するから、シリーズの第五弾ということになるのだろうが、前四作以上に描かれる世界は濃密で感動的だ。 主人公は十二歳の少女マキ。ママが突然、「自分自身をとりもどしたい」と言って離婚する。マキと四歳の妹の晶は、ママと一緒におじいちゃんの家に転がり込む。おじいちゃんはママたちの結婚に反対だったのだが、三人を黙って受け入れる。そこでマキは、桜谷のワルガキたちと出会うのだ。 マキはパパのことが気掛かりで、ママに内証で元の家を訪ねる。すると芸術家のパパは、すでに若い女性と一緒にいる。ママは金持ちの同級生をスポンサーにして画商を始める。晶はすっかりおじいちゃんの家が気に入り、飼い犬のトラをトララと呼んで、まるで兄弟のように仲良しになる。マキの目を通して描かれる大人の世界の危うさと、子どもならではの不安が、晶とトララとおじいちゃんを媒介にして、ゆるやかに溶解していく。おじいちゃんが山の神と呼び、晶がトララと名付けた年輪を重ねたタブの巨木が印象的だ。 (野上 暁)
産経新聞 1996/10/18
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