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梨木香歩さんは、『西の魔女が死んだ』で、日本の児童文学の世界に新風を吹き込んだ人だが、新作『裏庭』も、さまざまな人間像を重層的に描いた印象的な作品だ。
戦前に外国人の別荘として使われて以来、荒れ果てたままになっている大きな屋敷。これだけですでに何やら物語の匂いが立ち昇ってくるがたしかにその庭には、ある秘密があった。登場人物は、皆、幼い頃この庭で遊び、ある種の秘密をかぎ取った者たちぱかり。屋敷の持ち主である英国婦人レィチェルと、故人であるその妹。行方不明になったままの妹の婚約者。少女照美と両親、そして祖母。それはまた、それぞれ、心に大きな喪失感を抱えた者たちでもある。
英国人の姉妹の幼友達だったという老人から屋敷の中のふしぎな通路のことを聞いた照美は、ある日その通路から異世界へ入り込んでいく。現実世界での人物像は、とりわけレィチェルという老婦人が光と影までも鮮明に描き分けられて秀逸だ。それに比べファンタジー部分になると、風景や人物が脈絡無くめまぐるしく転換していくので、ついていくのは結構シンドィ。挿絵があったらなあと忠うのはこんなときだ。けれども、ジグソーパズルのように必ずや終章でぴたりと符号するだろうという期待感で(そしてその通りになるのだが)読まされる。『裏庭』の象徴するものは、読み手によって違うだろうが、読後、心に深い余韻を残してくれるのはまちがいない。
テーマも書き方も全く違うのだが屋敷の秘密といえぱ、『メニム一家の物語」のシリーズを思い出す。
英国の郊外の大きな屋敷。生垣でしっかりと囲われた庭のある、この屋敷に住む家族のことは、近所の人もほとんど知らない。それもそのはず、家族は全員、人間と等身大の布の人形だったのだ。人形物語は、何といっても英国の御家芸。ルーマ・ゴッデンの『人形の家』をはじめ数々の名作があるが、この作者も、登場人物の性格の巧みに描き分けと、細部を超リアルに描くことによって下手すれぱハチャメチャになってしまうこの物語に、揺るぎないリアリティーを与えている。
一巻めのブロックルハースト・グローブの謎の屋敷」(シルヴィア・ウオー作講談社 1996)では、ある日舞い込んだ1通の手紙によって40年間、人間社会の一員としてそれなりにやって来たこの家族が、恐怖のどん底に突き落とされる。現在このシリーズは3巻まで出ているが、次々に降りかかる危難に一家がどう立ち向かっていくか……1冊読むとハマる。(末吉暁子)
MOE 1997/02