キルトーーある少女の物語

スーザン・テリス

堂浦恵津子訳、晶文社

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 一八歳の少女ネルは、貧しい家族を助けるために、お金持ちとの結婚を決意します。相手は再婚。かなり年上で、子どもも一人います。いい人だとは思うけど、好きにはなれません。 家にお金があれば、大学に行くつもりでした。特に何かを勉強したいわけではなかったけれど。ボーイフレンドもいましたが、「いっしょに逃げよう」とは言ってくれませんでした。仕方がないので、ネルは嫁入り道具の一つのパッチワークキルト作りに熱中し始めます。長い婚約期間、よけいなことを考えないでいるために。 スーザン・テリスの『キルトーーある少女の物語』(堂浦恵津子訳、晶文社)は、一九世紀末のアメリカの片田舎が舞台。少女ネルの一年間の日記によって、物語が綴られて行きます。この間、彼女は次第にやせ細り、いわゆる「拒食症」の状態になります。「やせたい」などと一度も考えたわけではないのに。 古風な設定の中に、「現代」がたくみに織り交ぜられています。ネルが、その一針一針に、そのときどきの自分の気持ちのすべてを表現しようとした、キルトの描写が圧巻。(横川寿美子

読売新聞 1990/06