タイプライターの追憶

片岡義男/写真−佐藤秀明

角川文庫


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 「ここに全二〇〇ページの文庫本が一冊あるとして、前半の一〇〇ページには写真だけ、そして後半の一〇〇ページには文章だけが入っているという、そのような構成の文庫本をつくってみたいと、かねてよりぼくは思っていた」(あとがき)
 ぼくもかねてより、そんな本を読みたいと思っていたので、この本を買ってみた。
 前半の佐藤秀明の写真は、ポストカードのラックか環境ヴィデオの画面から抜け出てきたような、抑えた感じのしゃれた写真で、パラパラとめくっていくと、その流れのなかに、ひとつの雰囲気が息づいていた。
 後半の片岡義男の小説は、女性エディターが主人公だ。彼女は男友達のひとりから写真をもらい、もうひとりの男友達に電話をかけて、短編を依頼する。「一〇〇ページにわたって、まず写真だけがあって、後半の一〇〇ページに、あなたの文章が入るの」 つまり、彼女が本を作っていく過程が描かれているのだが、そのなかに男友達の書いたしゃれた短編がいくつか、はさみこまれている。構成そのものもしゃれているが、途中と最後にまたまた仕掛けがあって楽しい。
 しゃれた写真を楽しんで、しゃれた小説を楽しんで、もうひとつ楽しみが残った。この写真をめくりながら、自分で文章を書いてみるという楽しみだ。「片岡のよりおもしろいのができたらどうしよう」などと心配してみるのも、また楽しい。(金原瑞人
朝日新聞 ヤングアダルト招待席