Tバック戦争

E.L.カニグズバーグ 作
小島 希里 訳 岩波書店 1995.6

           
         
         
         
         
         
         
         
    
 『クローディアの秘密』でお馴染みのカニグズバーグ。彼女の作品はいつも、スパイスたっぷりの会話と絶妙な仕掛けがブレンド、登場人物それぞれの味付けも粋だ。読者の気をそらさないアップテンポな展開も定評あるが、…今回はTバック、さてどんな料理になるのだろうか。
 十二才の夏休み、クロエは義父の姉バーナデットと暮らすはめになった。心の中では反発を感じているけれど、面と向かっては抗議できない(「髪の毛の誓約」に代表される)お友達の連帯?から身をかわすためにだ。
 バーナデットは船着場や造船所の男達を相手に弁当屋をしている。その仕事っぷりにも圧倒されるが、周りに迎合せずそれでいて充実した生活をおくる彼女に、クロエは強い刺激を受ける。ある日、Tバック姿の同業者が現れ、マスコミにあおられ町は大混乱。聖書学校が反T組織を結成すると、弁当屋Tバック達の反撃も活発になる。騒動の中で、ただひとりTバックも着ないし反対運動もしないバーナデットが、両者からの標的となり包囲の輪がじりじりと絞られてきて…。
 しかし、どんな思いがけないことが起ころうと、バーナデットは「自分が自分であること」を放棄しない。彼女の毅然とした姿勢の中には借り物でない人生を歩んできた者の確かさが感じられる。「だれかさんとそっくりなら安心か?」と揺れていたクロエにも、それはしっかり受け止められたことだろう。また、個としての輝きを失うことなく同時に、集まることでまた別色の輝きをも放ち得ることを獲得してクロエの夏は終わる。
 テーブルの上には、ベトナム反戦運動からサボナローラ、ガリレオまでが並べられ、サービス満点と言いたいところなのだが…何だかメインディッシュ過剰で胃もたれになってしまった。カニグズバーグなら、もっとシャレた味で決めて欲しいと思うのは勝手な注文だろうか。(園田恭子
読書会てつぼう:発行 1996/09/19