花豆の煮えるまで

安房 直子:作
味戸 ケイコ:絵 偕成社

           
         
         
         
         
         
         
    
    

 「小夜(さよ)にはお母さんがありません。小夜が生まれて、ほんの少しで里へ帰ってしまったのです。里はお母さんの生まれたところで、山をいくつもこえた、梅の花のきれいな村だということです」―そこは山んばの村で「まぶたがほんのり紅色の、まるでほころびかけた梅の花のよう」だったお母さんは、山んばの娘だったのです。山んばの村には人間のだれも行けません。
 おばあさんが花豆を煮ながら小夜に、父さん母さんの出会いを話す「花豆の煮えるまで」。一度だけ風になった小夜が、母さんを捜しに行く「風になって」など、山奥の小さな温泉場に、一軒ある宿屋の娘小夜をめぐる六つの不思議なお話です。
 手つかずの自然の中にたっぷりつかっていると、木や花や生き物たちや、またそれらと共に住むという、目に見えない者たちと、ふっと心が通じあう・・・・・・と、作者は語っているのではないでしょうか。
 子どもたちに愛されるまま、ほっこりと温かく、時には胸の辺りがふるんと寒くなるような、独特のファンタジーをたくさん書いた作者は、この冬、この本を見ることなく、五十歳で亡くなりました。
 
(和)=静岡子どもの本を読む会
テキストファイル化山本京子