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 ハロウィーンをサンフランシスコで過ごして帰ってきたら、ルーマ・ゴッデン「ハロウィーンの魔法」(ルーマ・ゴッデン 渡辺南都子訳 偕成社)が届いていた。ゴッデンといえば、『人形の家』以米、数々の名作童話を送り出している大ベテラン。物語作りのうまさでは定評がある。
実を言うと「旅の興奮よ、もう一度」というつもりで読み出したのだがまったく違う意味で嬉しい興奮を味わった。舞台はちょっと前のスコットランド。喧騒うず巻くサンフランシスコとは、はるかに隔たった牧歌的な自然の中のハロウィーンだ。くりぬいてちょうちんを作るのが、かぽちゃではなく大きなかぶといった風習の違いもおもしろい。スコットランドの崖場の朝夕、霧に包まれる情景も実に美しい。しかし、何と言ってもこの物語の魅力は、動物をも含めた登場人物の豊かな個性にある。いわゆる「いい人」は出てこない。手に負えない頑固者のじいさんや、じいさん同様気難しい動物たちまでもが、作者の鋭い観察力と洞察力とによって、くっきりと光と影を与えられ、いきいきと動き出す。とりわけ、作者自身の少女時代の而影が投影されているという、ドジでへまできかん気のセリースという少女が魅力的だ。
作者のゴッデンがこれを書いたのは70歳近い時だ。今年80歳になる彼女の健筆はいまだ衰えてないという。まだまだ、彼女の新作が読めそうなのも嬉しい。
かわってスぺシャル・ゲスト』(リー・アレン小畑一美訳めるくまーる)の舞台は、アメリカの東部の町。アルバイトに明け暮れるスコット少年の前に、ある日、風変わりな老人が現れる。少年の妹は、1年前の交通事故で昏睡状態になったままであり、家族に暗い影を投げかけている。とりわけ少年は、事故の原因が自分にあったと思いこみ、自責の念に駆られている。老人は、そんな一家にクリスマスの朝、奇跡的な幸せを残して立ち去っていく。一種の天使ものだが、神の御使いがクラシックカーに乗って現れるあたりは、お国がらかも。
少年の一家が老人の言葉に従って事故を起こした男を許し、男が生まれ変わったようにいい人になるあたり「うまく行き過ぎ!」と思わないでもないが、読後感はさわやかだ。「精神の王国を支配する法則があるってことを忘れないでほしい」という老人の言葉を、信じてみたくなっている自分に気づく。
殺伐とした事件の続く今日この頃せめて本の中では、あったかーく、心洗われる世界に浸りたいと思う向きに、お勧めの2冊だ。(末吉暁子

MOE 1998/02