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この本を読んで、東京ディズニーランド(TDL)のアトラクション「スター・ツアーズ」を思い出した。 レールのない電車のようなへびの中に乗り、花畑とかモグラ穴とか、屋根の上なんかをめぐるという基本設定も似ているし、その後トラブルに巻き込まれ、コースを脱線してスリリングな場面へと展開される構成も、ほとんどそっくりといっていいんじゃないだろうか。 しかし、実は、この絵本がTDLを想起させたのは、ストーリーが似ているといった、そんなチンケな理由によるものではない。客の楽しませ方というか、サービス精神の発揮のされ方というか、とにかく、TDLの最大の魅力である、全体を支える細やかな配慮のあり方みたいなものが、実に実に似ているのである。 表紙をめくると、カバー袖には「観光センター」のポスターが描かれ、見返し裏は「センター」の遠景となる。扉では、赤と黄色の個性的な顔をした「へび第六号」の口上があり、さらにめくると、いよいよタイトル画面である。ここからお話のメインである遊覧シーンが始まっていくわけだが、もちろん、すでに読者は物語世界の中にいる。そうして、ハラハラドキドキの観光を十二分に楽しむのだ。エンディングも、当然、裏表紙に至るまでちゃーんと遊んでくれていて、頭からしっぽまで丸ごと全部〈絵本〉しているんである。(甲木善久)
産経新聞 1996/05/31
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