光草−−ストラリスコ

ロベルト・ピウミーニ/作
長野 徹/訳 小峰書店刊

           
         
         
         
         
         
         
    
 ストラリスコ(光草)……何と美しい響きを持つイタリア語でしょうか。夜の闇の中で、金色に光る穂をそよがせるこの草は実在せず、この物語にだけ登場します。
 イタリアの作家ピウミーニの代表作の舞台は故国ではなく、いつとも知れない時代のトルコの一地方です。画家のサクマットは風景画の名手で、一筆ごとに情熱を注いで描く風景は、まるで神の手で造られたような出来ばえでした。その腕を買われ、ある大公に招かれます。大公のひとり息子マドゥレールは十一歳。陽の光や外の空気に触れることのできない難病にかかっていて、戸外へ出ることができません。少年を慰めるため、画家は部屋の壁に風景の絵を描くことになります。
 白い壁に向かい、画家は絵筆をとって少年の心のイメージを描いていきます。山々や谷、羊飼いや馬車に乗っていく少女、戦いに包囲された町、そして海や草原……。
 絵には、時の流れも描きこまれます。水平線に点のように見えてきた海賊船はしだいに近づき、そこには見習い水夫である少年自身が乗っているのでした!
 そして、さまざまな生命を秘めた草原に、少年は自分の筆で不思議な光草を描きこみます。
 少年の人生の残りが少なくなった時、その<終わり>の時間の流れも、絵には描き加えられていきます。ゆったりとした、自由で伸びやかな創造の業が、そのままのテンポで終焉していき、やがて少年が世を去り、画家が絵筆を燃やし、物語が終わったあとも、そのプロセスの充実感が残ります。少年が画家や父親と心を深く通わせあうのも印象的でした。
 詩のような言葉にあふれたこの作品は、<創造>という行為が人と人との愛の交流につながることの神秘を示した寓話ともいえるでしょう。
イタリアでは、一九八七年に刊行されて以来、年齢を問わず多くの人びとに親しまれているそうです。(きどのりこ
『こころの友』1999.08