魔女からの手紙

角野栄子

ポプラ社 1997


           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 絵本で見た魔女のような顔のついた切手がはられた古い手紙が届く。あて先は「ふかもりカスレ」。会ったこともない、ひいおばあちゃんの名まえだ。カスレおばあちゃんには不思議なともだちがいっぱいいたのよ、っておばあちゃんから聞いたことがある。主人公のヤヤはその手紙をもって納戸に行き、ひいおばあちゃんの思い出がしまってあるという、黒い布に花刺しゅうが一面にしてある大きなバッグを開く。光る糸で星の刺しゅうがしてあるマフラーや黒いとんがり帽子と一緒に古い手紙がたくさん出てきた。それは、魔女だったカスレおばあちゃんに送られた魔女からの手紙。
 これはすごい。絵本やイラストレーションの世界で、それぞれ個性的な仕事をしている二十人の画家たちの競作なのだ。カバーから見返しと目次までが荒井良二。この導入部の仕掛けがなかなか工夫されていて、この本にかかわったデザイナーや編集者の意気込みも感じられる。最初の手紙はブルーナーで、次はいとうひろし。和田誠、市川里美、五味太郎、黒井健と続き、センターページはスズキコージのポップアップ。魔女たちの森からいきなり飛び出した大きな月のような顔の手前を、ほうきに乗った魔女のシルエットが浮かび上がる。魔女をテーマに勝手に描いてもらった絵に、後から文章をつけて構成したのだというが、書体も文体も違う魔女たちの手紙から、人生の機微が見事に立ち上がってくる。何度も楽しめるぜいたくな絵本だ。(野上暁)
産経新聞 1998/01/12