|
『精霊の守り人』にはじまる「守(も)り人」シリーズの第三作は、前二作とはまた違った角度から、この世(現実の世界)とあの世(異界)の不思議な関係を物語る。今回のキーワードは「夢」である。 人は、現実のむなしさ、きびしさに耐えきれないとき、夢に逃れようとする。夢とは〈魂〉が〈生命〉から目に見えぬ糸を伸ばして異界に旅立つことらしい。 その異界には、異界そのものを象徴するような妖(あや)しい花が咲いていた。数十年に一度受粉し種を産むのだが、そのためには無数の夢を花房に宿さねばならない。 異界の花に夢をとらえられてしまった人々は、深い眠りにつき、受粉のときが来るまで目覚めることができない。 そこで、あの女用心棒バルサの登場である。 バルサの実らぬ恋の相手タンダも、タンダの師匠の呪術師トロガイも、花の呪縛(じゅばく)から夢見る人を解きはなつために、絶望的なたたかいをくりひろげる。 息もつかせぬおもしろさである。だが、それは簡単な説明や紹介を拒む種類のおもしろさだ。読むしかない。そして『精霊の守り人』『闇の守り人』(ともに偕成社)へと順序が逆になっても構わないから、読み進んでほしい。 上橋菜穂子の「世界観」は、その根本のところで若い読者を勇気づける。(斎藤次郎) |
|