雪あらしの町

ヴァジニア・ハミルトン

掛川恭子 訳 岩波書店 1993/1996


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 日本でもよく知られ、評価の高いアメリカの作家ヴァジニア・ハミルトンが一九九三年に発表した作品で、彼女の作品系列としては『偉大なるM・C』『わたしはアリラ』に続くもの。当然、もっとも大きなテーマは自己の発見と確認である。
 ヒロインはまもなく十三歳になるブレア・シムズ。難しい年頃に加えて、彼女の出生と生い立ちと現在の生活の複雑さが、彼女を精神的にさらに難しい立場に置く。母親は歌手でダンサー、住まいは川に支柱をうちこんでその上に作ってある水上ハウス。父親はベトナム戦争で戦死したと、親族の大人たちからきかされている。そして、世間では、彼女のことをフラワー・チャイルド(六〇年代ヒッピーの落とし子)と噂している。白人と黒人の混血なので黒人一般より皮膚の色が薄く、髪も金髪に近い黄色である。それも差別の一要因となっている。
 このブレアが、表題のPlain Cityで差別意識、恋愛、血縁関係など、複雑にからんだ糸のような世界で意志的に暮らす様子と、実は社会的落伍者として生きている父親を知り、その事実を受け入れていく経過が、複雑でしかもplain(平易に)に語られる。
人種や階級のような、人を差別し憎悪を生む大問題を根底に、一見ふつうの物語を創作したこの作家は、真に非凡だと思う。(神宮輝夫)

産経新聞 1996/08/16