|
![]() 幕開けはジョーン・エイキン『月のしかえし』(猪熊葉子訳、徳間書店、一四〇〇円)から。エイキンはストーリー・テラーの名手。この絵本は伝承を取入れた短編で、バイオリンを上手に弾きたいと月に願った少年が、音楽の才能と引き換えに厳しい代償を払わされるというファンタジー。アラン・リーの表現力豊かな挿絵が物語を引き立てている。わたしはファンタジーという語から、美しいもの・遥かなものへの憧れと、怖いものみたさの欲求を連想する。そしてきれいで繊細なだけのイメージより、グロテスクさに通じる妖しさを歓迎する。その意味ではリーの絵は理想に近く、中世の風物はリアルで美しいが王様の幽霊や怪物は妖しく怖い。圧巻は海辺の絵で、超自然力のパワーが伝わってくる。 エイキン同様西洋の伝承を使っていても、O・R・メリング『歌う石』(井辻朱美訳、講談社、一五〇〇円)は言葉だけで超自然力あふれるイメージを喚起している。これは紀元前のアイルランドが舞台。主人公は現代人だがタイム・スリップして同地へ行き、宝を探してトゥアハ・デ・ダナーン族の滅亡を救おうとするその時代の娘に同行する。主人公にも自分の身元探しという動機があり、同じ作者の『妖精王の月』に比べて設定に無理が少ない。ダナーン族の滅亡が予言されているなかで悲劇を避けようとする試み、恋愛が絡んでいること、随所で彩り豊かなイメージがタペストリーのように展開することなど、ロマンチシスト向きの(というより、わたし好みの)ファンタジー作品である。 ![]() ウェストールと手法はちがうが、現代の学校を舞台に、芝居の稽古中に一九世紀の子どもたちの怨念が幽霊となって登場するジリアン・クロス『幽霊があらわれた』(安藤紀子訳、ぬぷん児童図書出版、一四〇〇円)も怖い本だ。クロスは歴史性をもたせることで鬼気迫る幽霊を出現させたが、劇に出演する子ども同士のいじめも、幽霊に負けず劣らず怖いからだ。そのほか、シルヴィア・ウォー『ブロックルハースト・グローブの謎の屋敷』(こだまともこ訳、講談社、一六〇〇円)、スー・ハリソン『母なる大地父なる空』(河島弘美訳、晶文社、上下各一六〇〇円)など、読みでのある本が目白押しだ。
読書人 1996/01/26
|
|
back |