コドモの切り札

(6)

時間を超えた出会い

甲木 善久
           
         
         
         
         
         
         
         
    
 しんどい現実を生き抜くために、コドモには生命力があり、老人には思い出と智恵がある。
 というのは、今、僕がつくった言葉だが、タイムファンタジー編3回目の今週は、そんなことについて書いてみたい。
 イギリス児童文学の名作にムは真夜中の庭で』という作品がある。作者はフィリパ・ピアス、翻訳は岩波書店から出ている。この物語、まだお読みになっていないのなら、明日にでも手に取られることをお勧めする。
 読後の余韻が、それはもう、良いのである。
 で、何がそんなにいいのかというと、字数もないので端的に書けば、つまりは、この物語のメーンテーマといえる、時間を超えた出会いである。
 弟のハシカのせいで休暇が台無しになり、おじ夫婦のアパートに預けられて退屈しているトム。養護施設からおばの邸宅に引き取られ、寂しい思いをしているハティ。そして、アパートの大家として独りで三階に住んでいる老婆、バーソロミュー婦人。この三人(?)が、真夜中に十三回の鐘を鳴らす時計を軸に、時を越えてシンクロする。
 こうしたストーリー、そうした出会いはタイムファンタジーという手法をもってして初めて可能となる。そして、そうした出会いを決定的なものにしてくれるのは、結末に描かれるトムの熱い抱擁だ。階段を二段とびに上がり、彼女に駆け寄るトムの姿は、まさにコドモならではのリアリティーに満ちている。
 さて、今週も『蒲生邸事件』(前回の『蒲生邸宅事件』は誤り)で話を締めよう。実はこの物語にも、同様に彼と彼女の出会いがある。宮部みゆきが『トム−』を読み、この物語を書いたのなら…。そんなステキなことはない。
西日本新聞1996,11,10

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