スペイン児童文学の話(04)

「新刊児童書展示室だより」TRC 2000/04

長谷川晶子


           
         
         
         
         
         
         
         
         
     
 スペインの子どもの本は、政治の変化の影響を受けながら、1960年代後半から少しずつ発展し、着実に成果を残してきました。バルセロナの大手書店に行くと、子ども向け出版物(コミックスなども含む)にかなり多くのスペースが割いてあります。翻って、日本で「スペイン児童文学」に触れてみたいと思ったらどうでしょうか。ためしにK963の棚の前に行ってみて下さい。『ドン・キホーテ』はどこの図書館にもあるでしょう。アンダルシアの詩人、JRヒメネスの『プラテーロとわたし』もあるかもしれません。これらの古典がいわゆる「児童文学」ではありませんが、もちろんスペインの子どもも読んでいます。他にはどんな作家がいるのでしょうか。みなさんが実際に手に取ることの出来ない作品・作家名の羅列をするよりも、まずは、わずかながらも日本語に翻訳されているスペインの子どもの本を紹介してみたいと思います。
 まず、『汚れなき悪戯(パンとぶどう酒のマルセリーノ)(Marcelino Pan y Vino,1952)』(小学館、1980)があります。作者のJMサチェス=シルバは、1968年に国際アンデルセン賞を受賞しています。世界で初めて認められたスペインの児童文学と呼んでも差し支えないでしょう。ただ、独裁政治のまっただ中に書かれたこの本は、美しい物語ですが、かなり宗教色の強い作品で、現在のスペインとは違った倫理観が根底にあります。
 変化へと向かう60年代・70年代に登場した作家たちの作品もいくつか紹介されています。ひとつは、コンスエロ・アルミホの『クルリンたちのゆかいなくらし(原題Los Batautos,1975)』(福音館書店、1990)で、クルリンという空想上の動物の日常をユーモアたっぷりに書いた作品です。『ふわりん(原題Fanfamus,1982)』(徳間書店、1998)の作者カルメン・クルツは、60年代から活躍してき、Oscarという主人公が活躍するシリーズが有名です。たくさんの作品を残し、昨年亡くなりました。二人とも国内の主な児童文学賞を受賞しました。スペインを代表する児童文学作家と言えます。
徳間書店 子どもの本だより2000/05.06
テキストファイル化岡田和子