いろいろないちにち

中村まさあき:作
文化出版局

           
         
         
         
         
         
         
    
    
 海沿いのいそのにおいのする小さな町の一日を、二時間ごとに区切って描かれた絵本です。十二枚の絵は、すべて、同じ構図です。
 絵の左上方に自動車道路、右下端の電車道、右上方の小さな漁港、点在する店、家々がどのページもいつも同じ所に、同じ向きで並んでいます。
 ところが、一枚ずつの絵は時刻によって、まったく違った趣になっています。本を開いた午前二時、町はシーンと静まり返り、明かりのついているのは駅、交番、勉強している学生の部屋しかありません。午前八時、駅は通勤の人たちでにぎわい、子どもたちも学校へ。パン屋、トウフ屋も店開きし、旅館も朝食を取っています。午後八時、幼稚園、魚市場を除いた町すべての窓に明かりがともります。八百屋、魚屋は店じまいに追われ、ヤキトリ屋、スナックはにぎわい、旅館も宴会たけなわです。そして午前二時、駅、交番、勉強している学生の部屋の明かりを残して、寝静まります。
 文字をひとつも使っていない本だけに、一ページごとに、たっぷりと絵を楽しみながら、ある家の一日、そこに住む人々の暮らしを想像しながら、細かく書き込まれた新たな発見ができます。あとがきを読むと、作者の意図の遊びがよくわかり、一層楽しめます。(安)=静岡子どもの本を読む会
 
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