いったいぜんたいどうなってたことか

ケン・レイニイ作

今江祥智訳ブックローン出版 1997


           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 画面いっぱいに、真っ正面から迫ってくる巨大なトリケラトプスの前に、口元に笑みを浮かべた少女が平然と立っている。よく見ると、少女の手は恐竜の首から垂らしたひもの一端をにぎっている。自分の体の何十倍もある恐竜を、散歩にでも連れていくところなのだろうか。文字のない絵だけの表紙に、真っ赤な縦帯がかかり、そこに白く抜いた「恐竜がいまも元気だったら、いったいぜんたい、どうなってたことか!」と書かれた文字が並んでいる。この絵本のタイトルでありテーマでもあるのだが、とてもおしゃれだ。 
 「ペットにできる恐竜がいてくれたらって、ずっと思ってる。だけど、よくよくかんがえてみるとね、恐竜がいなくなってよかったんじゃないかなあ」という少年のつぶやきから、場面が展開していく。恐竜がいたら、動物園だってうんと大きくしなくちゃいけないし、国立公園の巨木ブラキオサウルスが背くらべしたり、動物のお医者さんだってたいへん。 
 少年の空想の世界が、カラー写真のネガに操作を加えたように、リアルでしかも幻想的に描きだされ、その表現の仕方がこの絵本のテーマを見事に語っている。恐竜がいなくなっててよかったと少年はいうのだが、その少年の背後に、隠し絵のように恐竜の姿を配したラストは、絶滅した巨大生物に寄せる少年の熱い夢と期待を濃厚に浮かび上がらせている。(野上暁)
産経新聞 1997/06/24