日本の歴史をよみなおす

網野善彦

筑摩書房


           
         
         
         
         
         
         
         
    
 歴史、というとどうしても、年号のごろあわせや人名の暗記を思いおこしてしまう。だけど本当はそんなチマチマしたものじゃない。もっとダイナミック、もっとスリリング。そんな歴史の魅力をたっぷり味わえるのが『日本の歴史をよみなおす』 (網野善彦著、筑摩書房・1100円)だ。
 何が「神聖」で、何を「権威あるもの」とみるか。そういう人々の意識も歴史の中で変化してきた。日本でそれが大きく揺れ動いたのが十四世紀の南北朝の動乱期、その変動の意味をこの本は、現代につなげて考える。
 私たちは毎日なんの気なしにお金でモノを買っている。それがすっかりあたりまえになっているけれど、これも昔はそう普通のことじゃなかったのだ。モノを商品として交換するには、日常の世界と切れた特定の場(それが市場)が必要とされ、そこでモノをいったん神の世界のもの、つまり、だれのものでもないものにして初めて売り買いが可能になったのだそうだ。
 と書くと難しそうだが、中身はとてもわかりやすくて面白い。学校の授業や、テストのための暗記では見えてこない「歴史の素顔」のようなものが鮮やかな手並みで描かれている。 歴史の転換期にあるといわれる「私たちの時代」をよみなおすためにも、必読の一冊である。(芹沢清実)
朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1991/02/04

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