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 機械や動物と話ができる赤んぼうタッチュン……こう聞いて「ああ、あの赤んぼ大将」と懐かしく思い出した読者もいるにちがいない。
『海へいった赤んぼ大将』と『赤んぼ大将山へいく』が出版されたのは四半世紀も前のことだ。このほど出版された待望の続編『赤んぽ大将さょうなら』(佐藤さとる)の中では、現実と同じ時間が流れ、赤んぼ大将ことタッチュンも26歳の青年になっている。もちろん赤んぼ言葉も忘れている。
 しかし、モモンガ村には、三たび奇妙な事件が起きて、どうしても赤んぼ大将の力を借りなけれぱならないのだ。そこで、時間を自由に操ることのできる時計組合の面々は、タッチュンに少しの間だけ赤んぼうに戻ってもらうことにする。
 知的ゲームを楽しむように物語を進めていく作者のお手並みは相変わらず鮮やかで、読み始めたとたんに懐かしい世界に引き戻される。
 時の流れというものは、私たちの暮しの中でも、ときに魔法のような不思議な作用を及ぼすことがある。
 前2作の主人公のモデルになった作者の息子さんが、作品と同じように27年の時を経て、画家として新作に生き生きとした挿絵を添えているのも感慨深い。
 タイムファンタジーの分野ではフィリッパ・ピアスの『トムは真夜中の庭で』をはじめ、数々の傑作があるが、メルヴィン・バージェスのメイの天使』(石田善彦訳東京創元社 1997)も、忘れ難い感動を与えてくれる。
 両親の別居という辛い現実に直面し、タム少年は、やり場のない怒りを内に抱えている。母親に反発して家を飛び出し、今は廃壌となった農場に迷い込む。不意に現われた犬に導かれるょうに、タムは廃屋の壁を抜けて過去へスリップする。 時はあたかも、第二次大戦下。人々の神経もいらだっている。どこからともなく現われた異質な少年を待ち受けているのは、町の人達の冷たい仕打ちだ。
 タムを救ってくれたのは、農場に住む風変わりな少女メイだった。
 メイのたった一人の友達として、農場で3日間を過ごすが、やがてタムは後ろ髪をひかれる思いで、元の時代に戻る。メイの消息を訪ね回るタム。しかし、知りえた真実は衝撃的なものだった。
 50年の歳月が、人間の連命に及ぼす残酷な作用。一方で、どのように歳月が流れようと、永遠不変の心を持ち続けられるのも、人間という不可田議な生き物なのだろう。
 時の流れを巡って、さまざまな思いを抱かせてくれる2冊だ。(末吉暁子
MOE 1998/08
テキストファイル化 ひこ・田中