文学がこんなにわかっていいかしら

高橋源一郎


福武書店


           
         
         
         
         
         
         
     
 答えを先にいえば、「いいとも!」ということになるだろうな。ん? なんの話だって? ああ、ごめんごめん、今回は、そう、ブンガクの話。 まあ、そんなに顔をしかめないで。文学って本当は面白いんだから。
 「こんなにやせていいかしら」とたずねられると、返事に困るが、文学ならわかるにこしたことはない。で、まあ、そのわかりやすさの程度だけど、やはりむつかしいところはむつかしく、難解なところも多少はある。でも全体としては、うん、面白いじゃないの!というのが第一印象だ。
 芥川賞を受賞した三浦清宏の『長男の出家』と、実力派ナンバーワンの漫画家岡野玲子の『ファンシイダンス』を同じ茶碗に割りこみ、ついでに大橋巨泉の競馬予想もいっしょにかき混ぜて落語風に焼きあげた現代文学オムレツなぞ、なかなかの味だ。
 それから、橋本治の『桃尻語訳・枕草子』、『高校生のための文章読本』、氷室冴子の『なんて素敵にジャパネスク』、中森明夫の『東京トンガリキッズ』などをとりあげた「高校生のための文芸時評入門」はヤングアダルト必読の章。 とにかく「小説にはサーヴィス精神が必要であり」、「文学は暗くてかまわないが元気がでるものであってほしい」というのが作者の主張。
 読まずにおく手はない。(金原瑞人

朝日新聞 ヤングアダルト招待席 1989/06/04