幸せを待ちながら

ミリアム・プレスラー:作
松沢あさか:訳 さえら書房 1995.4

           
         
         
         
         
         
         
     
 「ビターチョコレート」「夜の少年」「だれが石をなげたのか」でプレスラーは現代のティーンエージャーを描いていた。でも、今回は第二次大戦後の少女が主人公。
 ハリンカは施設で暮らしている。心がこわれてしまった母親に虐待され、施設に収容されたのだ。施設の仲間たちも様々な理由でそこで暮らしている。彼女は、とても用心深く、人をたやすく信用しないし、友だちも作らない。そしてチャンスさえあれば、お金や施設のものをかすめ取る。秘密の場所でシンナーを嗅ぎ、うっとりした気分になることもある。彼女は辛さを堪え忍ぶというのタイプではない。母親に虐待され、頼れるのは叔母だけの彼女が、期待することを恐れ、友だちを作れずにいるのも当然のことだろう。
そんなハリンカも、募金活動をしたり、妹のように思える少女との関わりを通して、徐々に変化していく。人生は与えられるだけのものではなく、自分で築いてゆくものだと肯定的に捉えられるようになってゆく。
タイトルの「幸せを待ちながら」の「待つ」は、ただぼんやり待つということではない。懸命に生きていけば、きっと幸せにつながるのだという希望を持つことなのだ。人生に対する肯定的な姿勢を、時折見失いそうになることがある。何をしても同じ、生きれば生きるほど辛さが増すばかりだ、と感じることがある。でも、よく目をこらし耳をすまし、心を開いてみると、世の中は素晴らしいことばかりなのかもしれない。物が溢れているのに慣れ感覚が鈍くなって欲求ばかり強くなりがちな自分を戒めなければならない。ハリンカはそんなことを教えてくれた。(石川 喜子
読書会てつぼう:発行 1996/09/19