めぐりめぐる月

シャロン・クリーチ


もきかずこ訳 講談社 1996

           
         
         
         
         
         
         
         
         
    
 白を地にしたしゃれたジャケットのためか、『めぐりめぐる月』という象徴的なタイトルのゆえか、書店で一般文芸の棚にあるのを見かけるが、このニューベリー賞受賞作は、だれが読んでも面白い。これは、女性の立場から語る新しい家族像模索の物語だと思う。家族の回復・再生という段階は超えている。
 あらすじは、ジャケットの折り返しがじつに巧みにまとめている。アメリカのオハイオ州からアイダホ州まで三千キロを、家出して帰らない母親に会うために、十三歳のヒロイン、サラマンカが父方の祖父母とともにドライブするが、途中、祖父母に友人フィービーの一家の出来事を語る。それが、結局三つの物語を構成するのである。
 なぜ母親は家を出たのかという謎を縦糸に、フィービーとのつきあいを中心とした身辺のさまざまなできごとを横糸に、多様な家族と人間の模様を織り上げていく。子どもたちと大人たちの日常がリアルで興味深いので、サラマンカの母親が帰らない謎が絶えず気にかかる。
 一見、よくあるパターンの作品だが、万事を女性主体で語り、こうした小説にありがちな既成のモラルへの回帰や妥協がまったくないのが新鮮。数多い人物もきちんと描き分けられていてそれも魅力だが、中でもサラマンカの祖父が秀逸。訳は平明で読みやすい。(神宮輝夫)
産経新聞 1996/08/23