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『空色勾玉』『白烏異伝』に続く勾玉三部作の完結編『薄紅天女』(荻原規子 徳間書店 1996)が出た。前二作とは別の版元からだが、これを機に三冊同時に新装版として出版されたのは、読者にとっても作者にとっても、なにより作品自身にとっても幸せな事である。もちろん、それをさせたのは作品のもつ力なのだが。
神話時代が舞台の『空色勾玉』、ヤマトヌケルの時代の『白烏異伝』から、時代はさらに新しくなって平安遷都の直前。物語は、大和朝廷と蝦夷との戦いに常にさらされている坂東の野から始まる。
その地で育った少年阿高は、今は亡き母がかって蝦夷族の巫女であり自分自身にも途方もない力が伝えられているのを知る。力の源は母の残した薄紅の勾玉だった。それを手に入れようと躍起になって追手を繰り出してくる帝。
坂上田村麻呂や藤原薬子など、実在の歴史上の人物たちも勾玉を巡って登場するが、荻原さんの手にかかれば彼らもたちまちにして荻原ワールドの住人。主人公の青年を始め、目に浮かぶのは、どうしたって山岸涼子や岡野玲子の描く漫画の美青年たちだ。つまり、ナマミの人間じゃない。でも、荻原規子の愛読者には、そこんところが魅力なのだ。
ともあれ、恋ありオカルトありの起伏に富んだ筋立ては480頁の長丁場を飽きさせない。みんながハッピーエンドの結末は、やや意外だったが、生かすも殺すも作者の特権。荻原さんは根が優しい人なんだなあと思った。
『精霊の守り人』 (上橋菜穂子 偕成社 1996)は時代も場所も架空のものだが、どこか『薄紅天女』とダブる部分があって興味深かった。帝の子供として生まれたぱかりに自分では選ぶことのできない苛酷な運命を背負った少年と、心ならずも少年の守り手として危難に立ち向かっていく女戦士。(彼女、カッコいい!)行く手に待ち構えるのは、帝の放った追手との戦また戦。
息をもつかせぬ戦いの場面や、呪術師や薬草師、忍者まがいの隠密、何より皇子の抱える精霊の卵を狙ってやってくる妖怪(これがまた奇妙に『薄紅天女』で宮中に出没する物の怪と似たイメージなのだ)等々、ファミコンゲームも真っ青のノリだが、決して浮足だった絵空事ではない。弱小民族に寄せる視線には、現代に通じるテーマがあり、作者のしたたかな歴史観を感じる。
アニメや劇画の中で呼吸してきた世代の書き手と伺様に、いわゆる児童文学の読者もまた変わりつつあるのだろう。 (末吉暁子)
MOE 1996/11